木質バイオマスと鉄バクテリアを用いた自然水域における
リンの循環利用システム
- リンは陸域→水域に移動すると,その逆の経路はほとんどないので,循環にとぼしい元素です。
- また,リンは枯渇が懸念される資源ですが,我が国はほぼ全量を輸入に頼っています。
- 地下水や浸透水の多い水路の底などにしばしば見られる赤褐色のやわらかい塊である「鉄バクテリア集積物」は,リン吸着能を持つので,リン資源の回収と利用に重要な役割を果たすことが考えられます。
- しかしながら,鉄バクテリア集積物は容易に水流によって流されてしまうこと,また,下部には嫌気的なヘドロが堆積していることが多いため,有効な利用が行われていません。
- このようなことから,木質バイオマス担体を用いて,鉄バクテリア集積物を集め,これを「リン酸肥料」または「リン吸着材」として利用する方法を提案しました(詳しくは,「環境技術」2008年5月号 pp.347-351,Ecological Engineering, 2010, 1064-1069)。
現在のところ,以下のようなことがわかりました。
- 木質バイオマス(スギ・ヒノキの間伐材の心材)を用いた担体を自然水域に浸漬させると,そこに鉄バクテリア集積物が集まり,さらにこれが水中のリンを吸着して,3週間くらいで一定のリン酸肥沃度(水田土壌に要求されるリン酸肥沃度の3倍程度)を得ることができました。
- 木質バイオマスのリン酸含有量(ppm)は,水中のリン酸濃度(ppm)の約1万倍に相当していました。
- 上記の担体を用いてコマツナを栽培したところ,成長量の増加が認められ,植物のリンの供給源となることがわかりました。
- 上記の担体をリン濃度の高い溶液に入れたところ,さらにリンを吸着する吸着材として機能する事がわかりました。
- 短期間で鉄とリンの回収が可能なため,重金属の吸着がほとんど認められませんでした(最大でも基準値の5%程度)。
- たとえば水田において,化学肥料と同じ手間をかけることが可能とすると(散布肥料と同じ量の木質担体でリン回収が可能とすると),水田から排出されるリンの約20%が削減可能と試算されました。
なお,担体として木質バイオマス(スギ・ヒノキの間伐材の心材)を用いる事のメリットとして以下の事があります。
- ほとんどが炭素・水素・酸素で構成され,窒素やリンをほとんど含まないので環境にやさしい。
- 防食物質であるフラボノイド,フェノール類を多く含むので,水中では分解しにくい。
- 中空の細長いパイプ状細胞である仮道管が全体の約97%を占めるので,比表面積が大きい。
- 自然界に豊富に存在し,農地に散布した時の害がない。
特徴として以下のことが挙げられます。
- プラント内でのリン回収技術にみられるような,薬剤投入やpH制御などの操作が不要です。
- 回収した木質担体をそのまま農地に散布できますので,回収した吸着剤の処理・処分やリンの抽出を別途考える必要がありません。
課題としては,以下のようなものがあります。
- 回収した担体のほとんどが木質組織で占められていますので,リン含有量(%)は小さくしか計算されません。
- 自然水域の水質変動などによって,リンの回収効率が変化します。
- 現在の日本ではリン鉱石の輸入の方が経済的である場合が多いので,さらにコストや効率の向上が必要です。