研究雑感(水汲み人生30年…)
早いもので島根大学に赴任して30年以上の歳月が経ちました。赴任当時は何もなかったので,バケツとロープを買ってきて農業用排水など川の水を汲んでいました。なんだか〇〇の一つ覚えのようですが,窒素(N)やリン(P)の水質をしらべていくと,相互に関連があり,振り返ると以下のように分類できようかと思います。
- 人口減少が特徴的な流域における長期の水質トレンド
宍道湖に流入する最大の河川である斐伊川で週1回の水質測定を30年間続けた(おそろしくタイパの悪い)論文では,人口減少が特徴的であるにもかかわらず,河川水質に明確な低下傾向がみられませんでした。宍道湖はこれまで窒素やリンの環境基準をクリアしたことがありませんが,斐伊川の方が水質が高いので(宍道湖は斐伊川の水だけで年に3回入れ替わるので),今後も環境基準のクリアは難しいかもしれません。それにしても,宍道湖の水質レベルや環境基準(水質保全計画)が,琵琶湖より高いのはなぜでしょうか?
- 循環かんがい水田地域における汚濁物質の収支と物質循環
広大な水田が広がっているものの水が足りないため,排水路の水だけを用水として使っている(循環かんがい)地区がありますが,詳しく調べると窒素やリンが流域内で浄化される場合があることがわかりました。農村地域の多面的機能として「水質浄化機能」が挙げられますが,最近の効率的な水管理の下では浄化は少なくなっているのかもしれません。
- 間伐遅れの針葉樹人工林の水文特性と汚濁物質の挙動
スギやヒノキなどの植林された林は一見すると緑の自然ですが,よく見ると内部は昼間でも真っ暗な所があります。そのような所では表土が露出して,雨の時に肥沃な土壌が流れやすくなることがわかりました。人口減少もあって山林の管理が問題となっていますが,最近よく見られる「切り捨て間伐」のためか,災害時の流木が多いような気もします。
- 流域の汚濁物質の流出におよぼす耕作放棄地の影響
耕作放棄地では施肥はありませんが,過去の蓄積分が大雨の時に流れ出している場合があります。特にリンは,農地土壌の全国調査によると蓄積傾向なので,放置されると影響が大きいかもしれません。また,一見すると山林のようでも,よく観察すると棚田の痕跡(階段状の土地とその上の窪地)が見つかることがあります。少しでも平らな土地が確保できると水稲を植えていた先人の思いに触れる思いです。
- 木質バイオマスと鉄バクテリアによる自然水域からのリン回収
一般に河川の水質は,下流に行くほど上昇する傾向にありますが,上記2の水田流域のリンは逆に低下していました(きれいになっていました)。これには鉄バクテリアが作用していて工夫するとリンの回収につながることがわかりました。循環に乏しい元素であるリンは50〜100年で枯渇が懸念されていますが,日本ではまだ輸入した方が安いとされているようで,今後が不安でもあります。
30年やってみて,以下の事に気づきました。
- 一見単純に見える事の繰り返しの中に,何か深い意味が潜んでいる(かもしれません)。
- 一見複雑な問題は,いくつかの単純な問題の組み合わせ(かもしれません)。
- 中身がなくても外側だけ装っていると,そのうち中身も伴ってくる(かもしれません)。
” fake it till you make it”と言ったのは,Amy Cuddy博士(社会心理学)です。